ウィギンシア グラディアータ(Wigginsia gladiata) FS540
採集地の記録:near Salto, Uruguay
3年ほど前にチェコから種子を導入し、実生から育てている Wigginsia gladiata FS540。 うちでは丈夫なサボテンという印象で、日本の暑い夏にもよく成長し、 夏になるとウィギンシアらしい黄色い花を咲かせます。
この株の由来を調べると、FS540という番号は、 ウルグアイの採集記録だけでなく、 Wigginsia gladiataという名前が成立するまでの歴史にもつながっていました。 今回は、手元の栽培観察と、採集・分類に関する資料を合わせて紹介します。
1.FS540 ― Saltoに由来する採集記録
手元の導入記録とフィールドナンバー
種子の導入時に記録されていた名称と産地は、次のとおりです。
Wigginsia gladiata FS 540
near Salto, Uruguay
FSは、ブラジルのサボテン研究・採集で知られる Francisco Stockingerのフィールドナンバーです。 古いNotocactusのフィールドナンバー資料にも、 「FS 540 — gladiatus — Salto / Uruguay」 という記録が残っています。
また、古い整理では Malacocarpus gladiatus n.n.という名称のもとに、 FS540、FS714、FS873、KZ122、HU1077、PR113など、 複数のフィールドナンバーがまとめられていました。 「n.n.」は、正式な命名上の要件を満たしていない名称を示す表記です。
つまり「gladiatus」と呼ばれる植物は、 正式な種として記載される以前から、 採集者や栽培家の間で認識されていたことになります。 [資料:Notocactusの名称・フィールドナンバー整理]
同じ番号に残る、異なる分類名
ADBLPSの2026年3月の種子リストでは、FS540は 「sellowii fa. gladiatus FS540 — Salto, Uruguay」 として掲載されています。 こちらには、sellowiiの一型として扱う分類が残っています。 [資料:ADBLPS種子リスト]
分類名が変わっても、FS540という番号は由来を照合する手掛かりとして残ります。 ただし、番号だけで現在流通する株の同一性が保証されるわけではありません。 種子の入手先や、その後の増殖記録も合わせて残しておくことが大切です。
2.長く知られていた植物が、2020年に正式記載された
Wigginsia gladiataの命名
Wigginsia gladiataが正式に記載されたのは2020年です。 Victor GaponとNatalia Ponomarevaが、 モスクワのサボテンクラブ誌Kaktus-Klubに記載を発表しました。 [資料:2020年の原記載]
命名の基準となるタイプ標本には、FS540ではなく、 VG15-1424の採集株が用いられました。
| 採集番号 | VG15-1424(VG-1424とも表記) |
|---|---|
| 採集地 | Arroyo Valentín Grande, Salto, Uruguay |
| 標高 | 93 m |
| 採集日 | 2015年11月18日 |
| 標本収蔵先 | ウィーン大学の標本庫(WU) |
FS540とVG15-1424の関係
この二つの番号は、次のように区別できます。
- FS540: Stockingerによる、Salto由来の採集記録。 古くからgladiatusの名称で扱われてきた系統。
- VG15-1424: SaltoのArroyo Valentín Grandeで採集され、 2020年の正式記載でタイプ標本に用いられた植物。
両者は同じSalto地域に由来しますが、 同じ採集地点・同じ個体群だとまでは断定できません。 FS540について分かっている産地情報と、 VG15-1424について記録された詳細は、分けて読む必要があります。
3.「gladiata」の由来 ― 剣のような強い刺
種小名のgladiataは、 ラテン語のgladius(剣)に由来します。 この植物の特徴を、名前そのものが表しています。
2020年の原記載では、次のような形態が示されています。
- 4本の強い刺が十字状に配置される。
- 刺はまっすぐ伸び、断面が三角形になる。
- 成熟株の茎は暗緑色を呈する。
- 肋の数は21~23本ほどになる。
比較対象とされたWigginsia sellowiiは、 刺が比較的弱く本数が多い傾向があり、 茎はより大型で淡い青緑色になるなど、 形態上の違いが示されています。 [資料:原記載の形態比較]
FS540が種子リストで「sellowii fa. gladiatus」とも扱われていることを考えると、 これらの違いをどの分類階級で評価するかが、 この植物の扱いに関わってきたことが分かります。 成長とともに現れる強い刺は、その違いを観察する上でも注目したい特徴です。
4.自生環境 ― 乾燥砂漠だけでは理解できないサボテン
水溜まりの近くで見つかった個体
ウルグアイでの現地調査を紹介した2018年の資料には、 VG-1424の植物が、 岩場の水溜まりのすぐ近くに生育している写真が掲載されています。
記事では、強烈な刺から乾燥した環境を連想するものの、 この場所の植物は少なくとも水分に乏しい状況には見えない、 という趣旨の観察が述べられています。 [資料:ウルグアイでの現地調査]
ただし、これはVG-1424の生育地点についての観察です。 FS540も同じような水辺で採集されたとまでは言えません。 また、水溜まりの近くに生えていることと、 根が常に湿った状態に耐えることも、同じではありません。
Saltoの気候と、日本での栽培観察
Salto県の公式資料では、この地域の気候は 温暖・湿潤で、夏は暑いと説明されています。 典型的な乾燥砂漠とは異なる環境です。 [資料:Salto県の気候]
この背景を踏まえると、Wigginsia gladiataは、 乾燥への耐性だけでなく、 夏の暑さと降雨のある南米東部の岩場環境との関係からも 理解したいサボテンです。
うちのFS540が日本の夏にもよく成長するという観察は、 こうした地域の気候と重ねて考えると興味深く感じられます。 もっとも、これは手元の栽培条件で得られた実感であり、 自生地の写真だけから耐湿性や水やりの適量を決められるわけではありません。
5.WigginsiaからParodiaへ ― 名前と分類の現在地
命名と属の組み替えは別の出来事
2020年にWigginsia gladiataとして記載された後、 2021年にM. H. J. van der Meerによって、 Parodia gladiataへ組み替えられました。
KewのPlants of the World Onlineでは、 次の名前が受容名として扱われています。 [資料:Plants of the World Online]
Parodia gladiata (V.Gapon & Ponomareva) M.H.J.van der Meer
基礎異名:Wigginsia gladiata V.Gapon & Ponomareva
「正式に記載された名前」と「ある分類体系で採用される名前」は区別できます。 Wigginsia gladiataは正式記載された名前であり、 Kewの分類体系では、属をParodiaに置いた名前が採用されています。
属の境界については研究が続いている
2023年の研究では、広義のParodiaに含まれる WigginsiaやNotocactusなどの分類境界が、 引き続き検討の対象となっていることが指摘されています。 [資料:2023年の分類研究]
2025年の多数の核遺伝子を用いたサボテン科の系統解析では、 Wigginsiaを含む広義のParodiaが、 共通祖先に由来する一つのまとまりとして支持されています。 一方、その内部の関係には不明瞭な部分も残ります。 [資料:2025年の系統解析]
同じ2025年には、胚珠形成などの比較から、 Wigginsiaなどを区別する分類にも根拠を示す研究が発表されています。 形態・発生学・分子データを合わせた、さらなる検討が必要とされています。 [資料:2025年の発生学的比較研究]
これらは属の範囲を考える研究であり、 FS540そのものの位置づけを直接確定するものではありません。 私は栽培上、導入時の由来を残すため、 Wigginsia gladiata FS540というラベルを維持し、 Parodiaの名前も併記しておこうと思います。





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