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レブチア・セニリス WR 167 ― フィールド番号に残されたサルタの記録

10/5/2026

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写真
Rebutia senilis f. WR 167 Locality: La Viña, Salta, Argentina Seed source: BRNO (2022) 原産地を思い浮かべながら・・・

うちで育てている レブチア・セニリス(Rebutia senilis WR 167) が、小さな赤い花を咲かせています。

この株は3年ほど前、チェコから種子を導入して実生したものです。

比較的小さな球体から赤い花を咲かせ、さらに興味深いことに、うちでは自家受粉して種子をつけます。

一見すると小さなレブチアですが、「WR 167」という番号を追っていくと、この植物にはアルゼンチン北西部の自生地と、ヨーロッパのサボテン栽培文化をつなぐ記録が残されていました。

WR 167という番号

WRは、オーストリアのサボテン研究家・採集家 Walter Rausch(ヴァルター・ラウシュ) のフィールドナンバーです。

フィールドナンバーのデータベースでは、次のように記録されています。

WR 167
Rebutia senilis
Walter Rausch
Argentina : Salta (La Viña)

つまりWR 167という数字は品種番号ではなく、もともとは特定の採集記録に結びついた識別番号です。

園芸植物として何世代も栽培されるうちに、植物そのものはアルゼンチンからヨーロッパ、日本へ移動していきます。しかし「WR 167」という番号が維持されていれば、その植物がどの野生集団に由来するとされてきたのかを後からたどることができます。

この点が、フィールドナンバー付きのサボテンを育てる面白さの一つだと思います。

「La Viña」と「Escoipe」という二つの産地表記

ところがWR 167を調べると、少し興味深いことがあります。

フィールドナンバーのデータベースでは産地が La Viña, Salta とされていますが、ドイツの専門誌 ECHINOPSEEN に掲載されたWR 167の写真では、

R. senilis WR 167 … Escoipe, Salta

と記されています。

さらにその記事では、WR 167について、赤花の植物に加えて黄色花の個体も存在することが紹介されています。

現時点では、このLa ViñaとEscoipeという二つの記録がなぜ異なるのかまでは確認できませんでした。

したがってWR 167について産地を記載する場合には、

WR 167 — Salta, Argentina
field-number database: La Viña
literature record: Escoipe

くらいにしておくのが慎重だと思います。

フィールドナンバーも、長い年月の間に種子交換、ラベル転記、コレクション間の移動を経ています。番号があるからといって、すべての情報が一義的に確定するわけではないところも、古いフィールドナンバーを追う面白さです。

Rebutia senilisという名前は、現在ではどう扱われているのか

もう一つ面白いのが分類です。

Rebutia senilis はCurt Backebergによって1932年に記載された名前ですが、現在のPlants of the World Online(Kew)では、独立種としてではなく、広義の Rebutia minuscula の中に整理されています。

現在の扱いでは、Rebutia senilis は概ね

Rebutia minuscula var. minuscula

の異名として扱われています。

この整理には理由があります。

Muruaga、Figueroa Romero、Kieslingによる2008年の分類学的研究では、アルゼンチン北西部の野生集団を実際に調査し、茎、刺、花、種子などの形態を比較しています。

その結果、かつて senilis、xanthocarpa、chrysacantha など別々の名前で呼ばれていた植物の特徴の多くが、自然集団の中で連続的に変化することが確認されました。

例えば senilis という名前は、白く長い刺が老人の白髪を思わせることから付けられたものですが、研究者たちは刺の色そのものが同じ集団内でもかなり変化すると報告しています。

花色についても同様です。

赤、橙、黄、ピンク系などの違いが、かつて多くの変種や品種名を生みました。しかし野生集団を調べてみると、花色は集団内でも変化し、分類群を分ける決定的な特徴にはなりにくいことが分かりました。

WR 167について「赤花だけでなく黄色花もある」という記録が残っていることは、この自然集団内部の多型性を考える上でも興味深い例です。

うちのWR 167は、その中では赤花型ということになります。

自生地は「砂漠」だけではない

Rebutiaというと小型の高山性サボテンという印象がありますが、R. minuscula の生育環境を詳しく見るとなかなか面白いものがあります。

2008年の野外調査では、現在 R. minuscula としてまとめられる集団は、アルゼンチン北西部の

  • Catamarca
  • Tucumán
  • Salta
  • Jujuy

に分布し、標高およそ 1,100~2,800m で確認されています。

生育場所は、上部山地林の露出した岩の割れ目や、高地草原の岩礫地です。

つまり、単純な「乾燥した砂漠のサボテン」というより、

山地の岩場で、乾季と雨季の周期を受けながら生活する小型植物

として見る方が実態に近そうです。

さらに同じ研究では、自然集団の開花が8月中旬ごろから始まり、乾季の終わりから雨季の始まりにあたる10~11月に、花と果実の生産が最も盛んになることも報告されています。

水分条件の変化と植物の活動時期が無関係ではないことを考えさせる記録です。

赤い花と自家受粉

うちのWR 167で特に面白いのが、自家受粉することです。

これは単にうちだけで起きている特殊な現象ではなさそうです。

Backebergがまとめた古い記載では、典型的な Rebutia senilis は、白い長い刺を持ち、直径約3.5cmのカーマインレッドの花を咲かせ、self-fertile(自家和合性)とされています。

また、野生由来株についても、多くの花を咲かせ、種子を豊富につくることが記されています。

これは、うちで観察している

赤花
+
自家受粉

という性質とよく一致します。

Rebutiaの古い分類では、この自家和合性も重要な形質として見られていました。

例えば R. senilis 系では自家受粉する植物が知られる一方、現在近縁群として整理されている wessneriana 系には強い自家不和合性を示すものがあることが、古くから報告されています。

しかし現在の分類学では、花色や刺だけでなく、こうした個々の性質にも変異があることを前提として、より大きな R. minuscula の集団として理解する方向に整理されています。

花粉を見ても「Rebutiaらしさ」がある

さらに細かいところまで見ると、Rebutiaでは花粉についても研究されています。

2008年に発表された花粉形態の研究では、アルゼンチン産Rebutiaの花粉を光学顕微鏡と走査型電子顕微鏡で比較しています。

Rebutiaの花粉は、おおむね32~55μm程度で、表面には微細な孔と非常に小さな突起を持つことが確認されています。

研究者はRebutiaを、花粉形態が比較的よく似たstenopalynous(狭い花粉形態を示す)な属と評価しています。

肉眼では刺や花色にかなり大きな違いがあるのに、顕微鏡レベルでは共通した構造を持っている。

これも、かつて多数に分けられたRebutiaをより大きなまとまりとして考える一つの材料になっています。

チェコから日本へ

うちのWR 167は、3年前にチェコから種子を導入しました。

調べてみると、チェコのサボテン愛好家のコレクションにも Rebutia senilis WR 167 の栽培記録が現在も残っています。

もちろん、それだけで個々の種子系統の来歴を証明できるわけではありません。

それでも、Walter Rauschが南米で記録した番号がヨーロッパの栽培家たちによって維持され、その種子がさらに日本へ渡ってきた、と考えると、フィールドナンバーの役割がよく分かります。

特にWR 167のような自家受粉する植物は、一株からでも次世代を残すことができます。

これは系統維持には有利な性質ですが、一方で、栽培下で何世代も自家受粉を繰り返せば、野生集団が持っていた遺伝的な多様性の一部だけが固定されていく可能性もあります。

その意味では、

「WR 167」という番号は野生集団そのものを保証するものではなく、その野生集団に由来するとされる栽培系統の履歴を示すもの

と考えるのがよいのだと思います。

小さなサボテンに残る記録

うちのWR 167は、大きく派手なサボテンではありません。

小さな球体に、小さな赤い花を咲かせます。

そして花が終われば、自家受粉して種子を残します。

ただ、そのラベルに書かれた WR 167 という数字をたどっていくと、

Walter Rauschによるアルゼンチンでの採集記録、Saltaの山地、1930年代から続くRebutiaの分類論争、ヨーロッパでの栽培と種子繁殖、そしてチェコから日本へ渡ってきた種子へとつながっていきます。

現在の分類では、この植物を Rebutia minuscula var. minuscula の一系統として理解するのが妥当でしょう。

それでも栽培上は、私はこれからも

Rebutia senilis WR 167

という名前をラベルに残しておきたいと思います。

分類名は変わっても、WR 167という番号には、その植物がどこから来たのかという別の種類の情報が残っているからです。

写真
Rebutia senilis f. WR 167 Locality: La Viña, Salta, Argentina Seed source: BRNO (2022) 我が家の鉢植え。実際はこんな感じです。

参考文献・資料

  • Muruaga, N.B., Figueroa Romero, M.R. & Kiesling, R. (2008). Circunscripción de Rebutia minuscula (Cactaceae, Cactoideae). Darwiniana 46(2): 318–327.
  • Garralla, S., Muruaga, N.B. & Cuadrado, G. (2008). Morfología polínica de especies argentinas de Rebutia s. str. (Cactaceae, Cactoideae). Darwiniana 46(2): 270–278.
  • Weber, R. (2019). Rebutia trifft Molekularbiologie, Teil 3. ECHINOPSEEN 16(1).
  • Plants of the World Online, Royal Botanic Gardens, Kew — Rebutia minuscula.
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太平丸-VM896とJABO37をBaker (2022) の多変量解析とAI画像解析から考える

10/4/2026

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手元で育てている自生地データ(Field Number)付きの Echinocactus horizonthalonius(太平丸)2株について、 少し面白い試みをしてみました。

対象にしたのは、 VM 896(Guzman, Coahuila) と JABO 37(El Chiflon, Coahuila)です。

今回はこれら2株の写真とField Numberのローカリティ情報に加え、 Marc A. Baker が2022年に発表した Echinocactus horizonthalonius の形態学的多変量解析論文のデータをAIに提示し、 実際の株姿と論文で示された形態的特徴を照合してみました。

もちろん、写真をAIに見せただけで植物の分類を確定できるわけではありません。 ただ、Field Numberによって自生地が分かっている株の場合、 「どこから来た株なのか」という地理情報と、「どのような形をしているのか」という形態情報を重ねて見ることができます。

これが、Field Number付きの植物を育てる面白さの一つだと思っています。

※最後に、AIがなんか知らんけど突然、脈絡もなく 「サボテンと論文を組み合わせた謎の画像」を生成してきたので、 3枚目に貼っておきます。

【1枚目:Echinocactus horizonthalonius VM 896】

Field Number: VM 896
Taxon: Echinocactus horizonthalonius
Locality: Guzman, Coahuila, Mexico
Collector series: VM(Vojtěch Myšák 系列)

VM 896 は、メキシコ北部 Coahuila(コアウイラ州)の Guzman に由来するField Number株として記録されています。

写真の株で特に目立つのは、何と言っても刺の太さと直線性です。

非常に太く、黒色の強い中刺が、株の外側へ向かって比較的まっすぐ伸びています。 太平丸の仲間では、下方へ湾曲する中刺を持つ個体も多く見られますが、 このVM 896では「曲がる」というより、 太く硬い刺が放射状に押し出されているような印象があります。

一方で、株本体を見ると稜はかなり明確です。 低く平滑な稜というより、 稜と稜の間が深く入り、一本一本の稜がはっきり隆起しています。

つまりこの株は、 「直線的な刺」という一つの形質だけを見ると後述する subsp. australis を思わせる部分があるものの、 株全体を見ると必ずしも南部亜種的ではありません。

写真
Echinocactus horizonthalonius VM 896 Local data: Guzman, Coahuila, Mexico

【2枚目:Echinocactus horizonthalonius JABO 37】

Field Number: JABO 37
Collector: Jaroslav Bohata
Taxon: Echinocactus horizonthalonius
Locality: El Chiflon, Coahuila, Mexico

JABO 37 は、 Jaroslav Bohata によって記録されたField Numberで、 ローカリティは El Chiflon, Coahuila とされています。

JABO系列には、CoahuilaのほかNuevo LeónやTamaulipasなど、 メキシコ北東部の複数地点から記録された Echinocactus horizonthalonius が残されています。

そのためJABO 37という番号は単なる園芸品種名ではなく、 El Chiflonという特定の地域集団に由来する植物であることを示す情報 として見ることができます。

こちらの株はVM 896とはかなり雰囲気が違います。

表皮には太平丸らしい青白い、やや粉を帯びたような色調があり、 そこから赤褐色~黒色へ変化する非常に強い刺が出ています。

特に目立つのが中刺の湾曲です。

VM 896が外方向へ直線的に刺を伸ばすのに対し、 JABO 37では太い中刺が大きく曲がり、 株体を包み込むような立体的な刺座を形成しています。

さらに稜も明確に隆起しています。 そのため、 「高い稜」と「湾曲した中刺」 という二つの特徴が非常に分かりやすい株です。

写真
Echinocactus horizonthalonius JABO 37 Local data: El Chiflon, Coahuila, Mexico

【Marc A. Baker (2022) は太平丸をどう解析したのか】

今回比較材料として使ったのが、 Marc A. Baker が2022年に学術誌 Diversity に発表した論文です。

論文タイトルは、

A Multivariate Study of Morphological Characters for Echinocactus horizonthalonius and E. texensis (Cactaceae) and Description of a New Subspecies, E. horizonthalonius subsp. australis

です。

Bakerは、 Echinocactus horizonthalonius の分布域にある複数の集団を調査し、 個体の形態を単に「刺が太い」「球体が青い」といった印象だけで比較するのではなく、 17の形態形質を計測しました。

そこには例えば、

  • 稜数
  • 稜の高さ
  • 稜の幅
  • 刺座間の距離
  • 中刺の本数
  • 側刺の本数
  • 下側中刺の長さ
  • 上側中刺の長さ
  • 中刺の角度
  • 中刺の湾曲度

などが含まれています。

そしてそれらを DFA(Discriminant Function Analysis:判別分析)や MANOVA(多変量分散分析) によって解析しました。

つまり、一つの形質だけで分類したのではなく、 複数の形質をまとめて比較したことが、この論文の重要なところです。

【Bakerが認識した3つの地理的グループ】

解析の結果、 Echinocactus horizonthalonius には、 形態と地理的分布がおおむね対応する3つのグループが認められました。

① subsp. horizonthalonius

主としてChihuahuan Desert(チワワ砂漠)に分布するグループです。

メキシコ北部からアメリカ南西部にかけて広く分布する、 いわば基本亜種にあたります。

② subsp. nicholii

主としてSonoran Desert(ソノラ砂漠)側に分布するグループです。

従来 Echinocactus horizonthalonius var. nicholii などとして扱われてきた集団で、 Bakerは地理的・形態的まとまりを考慮して亜種レベルで扱っています。

③ subsp. australis

そしてBakerが新たに記載したのが、 Echinocactus horizonthalonius subsp. australis です。

これは主として Central Mexican Plateau(メキシコ中央高原) の集団に対応します。

タイプ標本はGuanajuato州の Mineral de Pozos付近からのものが指定されています。

【論文データを実際に比較してみる】

Baker (2022) のTable 4には、 各グループの形態形質の平均値が掲載されています。

形質 subsp. horizonthalonius subsp. nicholii subsp. australis
稜高 16.65 mm 17.57 mm 12.48 mm
下側中刺長 29.54 mm 30.53 mm 22.07 mm
下側中刺の湾曲度 1.43 1.67 0.24
上側中刺長 29.77 mm 35.44 mm 21.24 mm

こうして数字で比較すると、 subsp. australis は単純に 「刺がまっすぐな太平丸」というだけではないことが分かります。

むしろ、

  • 稜が比較的低い
  • 中刺が短い
  • 中刺の湾曲が非常に小さい

という複数の特徴が組み合わさっています。

Bakerの分類キーでも、 南部集団では稜高がおよそ12.5 mm、 中刺の湾曲が非常に小さく、 上側・下側中刺も北部集団より短いことが特徴として示されています。

【VM 896をBakerのデータから考えてみる】

VM 896で最初に目を引くのは、 非常に太く、比較的まっすぐ伸びる黒い中刺です。

「直線的な中刺」という一点だけを取り出せば、 確かにBakerが記載した subsp. australis の特徴を連想させます。

しかし、それだけで南部亜種と判断することはできません。

このVM 896では、 写真から見ても稜がかなり深く、明確に隆起しています。

Bakerのデータでは、 subsp. australis の平均稜高は12.48 mmなのに対し、 基本亜種では16.65 mmあります。

また、VM 896の刺は直線的ではありますが、 非常に太く、長く、頑丈です。

そのため形態全体を見れば、 「南部亜種的な直線刺を持つ」というより、 基本亜種の中に存在する直線強刺型の地域変異 と見ることができます。

そして、それ以上に重要なのがローカリティです。

VM 896のデータは Guzman, Coahuila。

CoahuilaはBakerの地域区分では、 基本亜種 subsp. horizonthalonius が中心となるChihuahuan Desert側に位置します。

つまり、 地理情報と株全体の形態を組み合わせると、 基本亜種側に位置づける解釈とよく整合します。

【JABO 37をBakerのデータから考えてみる】

一方、JABO 37は非常に特徴の分かりやすい株です。

まず稜が高く明確です。

さらに、中刺が大きく湾曲しています。

Bakerのデータでは、 基本亜種 subsp. horizonthalonius の下側中刺の湾曲値は平均1.43、 subsp. australis は0.24でした。

つまり南部集団では刺がかなり直線的なのに対し、 チワワ砂漠側の基本亜種では、 より明確な湾曲が見られる傾向があります。

写真のJABO 37には、 この特徴が非常にはっきり現れています。

さらにローカリティは El Chiflon, Coahuilaです。

したがって、

  • Coahuilaという地理的位置
  • 明確に隆起する稜
  • 大きく湾曲する中刺

という複数の情報が、 Chihuahuan Desert側の subsp. horizonthalonius という位置づけとよく整合しています。

【VM 896とJABO 37 ― 同じCoahuila産でもこれだけ違う】

今回特に面白いのは、 この2株がどちらもCoahuila由来でありながら、 かなり違った姿をしていることです。

特徴 VM 896 JABO 37
Locality Guzman, Coahuila El Chiflon, Coahuila
刺 太く、比較的直線的 太く、強く湾曲
刺色 黒色が強い 赤~黒のグラデーション
稜 高く明瞭 高く明瞭
Bakerとの対応 基本亜種内の直線強刺型として解釈可能 基本亜種の形態傾向とよく整合

ここがField Number株の面白いところです。

日本の園芸では太平丸に対して、 「太平丸」「翠平丸」「花王丸」「小平丸」など、 刺や肌、株姿によって様々な園芸的呼称が使われてきました。

しかしField Number株を見る場合は、 そのような園芸的な名前とは少し違った見方ができます。

「この刺が格好いいから○○丸」 ではなく、 「この形質を持った植物が、実際にどこの地域集団に存在していたのか」 を見ることができます。

【Field Numberは“個体名”ではなく、集団への入口】

Field Numberについて、もう一つ重要なのは、 同じ番号=同じクローンではないということです。

例えば「JABO 37」という番号は、 JABO 37という一個体だけを意味するものではありません。

その番号で記録された地域集団に由来する種子から育った植物であれば、 同じJABO 37でも刺の太さや曲がり方、肌色などには個体差が生じます。

むしろ、その個体差を含めて地域集団を見ることが、 Field Number付き植物を何株も育てる面白さなのかもしれません。

【AI画像解析でどこまで考察できるのか】

今回行ったAIによる画像解析は、 あくまで形態比較を補助する試みです。

Bakerの研究そのものは、 多数の野生個体について実測値を取り、 集団単位で統計解析したものです。

それに対して今回は、 栽培下にある一個体の写真を見て比較しています。

栽培環境、水分、肥培、日照、株齢などによっても、 株の見え方は変化します。

またBaker自身も分類キーについて、 形質が重複するため 一個体だけでなく、集団内の複数個体を見て平均的な特徴を判断する必要がある としています。

したがって、 AIの役割は写真だけから亜種を断定することではなく、

Field Number → ローカリティ → 論文 → 形態データ → 実際の株

という情報をつなぎ、 「この株の特徴は、論文に記載された地域差とどのように対応しているのか」 を考える補助として使うことにあると思います。

【まとめ ― Field Numberが残してくれるもの】

今回のVM 896とJABO 37は、 どちらも Echinocactus horizonthalonius であり、どちらもCoahuila由来です。

しかし実際の株を見ると、

VM 896は太く直線的な黒刺。

JABO 37は赤黒く、大きく湾曲する強刺。

という明確な違いがあります。

そしてBaker (2022) の多変量解析を見ることで、 こうした違いを単なる 「格好いい刺」「変わった刺」 として見るだけではなく、 太平丸という種の中に存在する地理的・形態的多様性の一部 として眺めることができます。

Field Numberは、植物に付いている単なる番号ではありません。

その株の後ろにある「場所」を残す記録です。

そして場所が分かれば、論文、地形、気候、植生、 さらに同じ地域に生育する他の植物へと情報をつないでいくことができます。

ただ一株の太平丸を眺めていたはずなのに、 Field Numberを辿っていくと、 いつの間にかCoahuilaの自生地と、 メキシコ全体に広がる Echinocactus horizonthalonius の地域変異を見ることになります。

この「植物から土地へ辿っていけること」が、 Field Number株を育てる一番面白いところなのかもしれません。

【参考資料】

Baker, M. A. (2022).
A Multivariate Study of Morphological Characters for Echinocactus horizonthalonius and E. texensis (Cactaceae) and Description of a New Subspecies, E. horizonthalonius subsp. australis.
Diversity 14(12): 1020.
DOI: 10.3390/d14121020

Field Number資料:
British Cactus and Succulent Society Field Number Finder
Cactus and Succulent Field Number Query / CL-Cactus

```
写真
最後に・・・AIが何故か突然ひょっこり生成した画像。(そんな指示してないのに・・・)
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ロビビア WR180の開花―黄色い花からたどるボリビアの採集記録

10/3/2026

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写真
Lobivia arachnacantha WR 180 Valle Grande à Samaipata / Santa Cruz / Bolivie 原産地での開花を思い浮かべながら・・・
うちの温室ではWR180をたくさん育てています。(カキコがよく取れる)
黄色い花がよく咲くタイプです。

WR180は、ボリビア・サンタクルス県のValle GrandeからSamaipataにかけてヴァルター・ラウシュ(Walter Rausch)が採集したものです。
フィールドナンバーの記録では、この周辺にはWR180のほかにも、近い地域から採集されたアラクナカンサ(arachnacantha )の仲間があります。

WR180という番号に残された情報

「WR」は、南米のサボテンを調査したヴァルター・ラウシュ(Walter Rausch)の名前を簡略させて表記したフィールドナンバーです。こうしたフィールドナンバーは、過去にどのような採集記録が行われたのか、そのつながりを示す手掛かりになります。
WR180の産地として伝えられているのは、ボリビア・サンタクルス県のValle GrandeからSamaipataにかけての地域です。
​この周辺には、アラクナカンサ(arachnacantha)の仲間として扱われてきた、ほかの採集番号もあります。

近隣のWR184・WR186との比較

WR180の周辺には、アラクナカンサの仲間として、WR184やWR186と言った種類も知られています。
フィールドナンバー
採集地の情報
花や刺の特徴
WR180
Valle Grande〜Samaipata方面
黄色〜オレンジの花。うちでは黄色い花がよく咲きます
WR184
Valle Grandeの南
Vallegrandensisとして知られ、赤〜橙赤色の花
WR186
Valle Grandeの東
densisetaとして知られ、赤花と密な刺が特徴
写真
densisetaという名前は、密であることと剛毛を表す語に由来します。
名前そのものにも、植物を見分ける際に注目された特徴が残されています。

これらの採集地を地図上に置くと、番号だけでは分かりにくい位置関係が見えてきます。
花の色や刺の違いを、産地と結び付けて眺めることができそうです。

花とともに受け継ぐ記録

育てている株の花を見る楽しみと、そして、その株がどんな背景・歴史があり、どこにつながっているのかを調べる楽しみ。
フィールドナンバーのあるサボテンには、その両方があります。

​農園で咲いたWR180の黄色い花も、ボリビアの土地と、そこを歩いて調査した人の記録につながっています。これからも番号と由来を残しながら、株ごとの違いを観察していきたいと思います。
写真
Lobivia arachnacantha WR 180 Valle Grande à Samaipata / Santa Cruz / Bolivie 実際には、ビニールマルチの上で育っています(汗)
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    近畿の住宅地の中でサボテンや多肉を育てています。
    小さなフレームとLEDやヒーターなどを駆使して栽培していましたが、2020年より実家の九州でビニールハウスを構えて新たに栽培しています。
    失敗だらけで腐らせてばかりですが、なんとか立派なサボテン・多肉を育てたいと思っています


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